SES会社のM&Aで社員へ説明する時期は、売却後に一律で決めるものではありません。譲渡方式と必要な手続き、確定した条件、社員が確認したい働き方を整理し、事前の説明・協議から引継ぎ後の面談まで計画します。
この記事で整理すること
社員説明を考えるとき、最初に見るべきなのは「売れるかどうか」だけではありません。買い手は、譲渡後も売上が残るのか、エンジニアが離れないのか、顧客との契約が安全に引き継げるのかを確認します。売却後のエンジニアへの伝え方を考える会社にとっては、価格の前に情報の整理順を決めることが大切です。
本記事では、説明時期、雇用条件、配属案件、評価制度、面談窓口を具体化します。未確定事項を「変わらない」と約束せず、決まっている事項と検討中の事項、次の回答時期を分けて伝えましょう。
譲渡企業側の相談では、社名や顧客名を最初から開示する必要はありません。初期段階では、売上規模、技術領域、地域、稼働人数、主要顧客の属性、譲れない条件だけでも方向性を確認できます。情報管理の順番を間違えないことが、よい候補先に出会うための第一歩になります。
社員が確認したい働き方と説明の準備
社員説明で先に確認したいのは、説明時期、雇用条件、案件継続、評価制度、面談計画です。売上や稼働率だけでは社員の疑問に答えられません。承継後に誰と、どこで、どの条件で働くかを説明できる資料を準備します。
特にSES会社では、エンジニア個人のスキル、顧客との関係、営業担当者の属人性が価値に直結します。決算書だけを出しても、買い手は判断しきれません。案件別の単価、精算幅、稼働期間、契約更新月、待機率、BP比率を整理することで、初めて事業の中身が伝わります。
また、買い手は「買収後に自社の事業とどうつながるか」を見ています。既存顧客へのクロスセル、採用力の補完、地方拠点の獲得、受託開発や保守運用への展開など、事業シナジーを説明できると、単なる利益倍率だけではない評価につながります。
社員説明の前にそろえる資料と確認担当
全員向けの説明資料と、給与・健康情報などを含む個別資料を分けます。次の表は準備例であり、全案件に共通する法定の説明期限を示すものではありません。
横にスクロールできます。キーボードでは表を選択して左右キーで移動できます。
| 確認項目 | 資料の例 | 照合・判断のポイント |
|---|---|---|
| 譲渡方式と手続き | 方式、対象範囲、予定日、必要手続き | 経営者・法務労務担当が、雇用主の変更や承諾等の必要性を確認して説明工程を組む。 |
| 給与・評価・福利厚生 | 現行条件、変更案、未確定事項 | 人事担当が現行と承継後案を対比。未合意の条件を「従来どおり」と断定しない。 |
| 案件・働く場所 | 配属先、業務範囲、常駐・在宅、通勤 | 営業・現場責任者が顧客側の確認状況を整理し、配属継続と変更可能性を区別する。 |
| 勤怠・待機・休暇 | 勤怠、残業、待機時の扱い、休暇 | 労務担当が実績と規程を照合し、相談時に個人が確認できる窓口を決める。 |
| 役割・育成 | PM/PL、技術領域、資格、研修計画 | 現場責任者が評価・育成方針を整理し、昇格や案件獲得が保証されるような説明を避ける。 |
| 説明・個別面談 | 全体説明案、想定質問、面談予定 | 経営者と人事が回答担当・期限を決め、疑問や意向を記録。個人別条件は適切な範囲で扱う。 |
| 顧客・BPとの調整 | 説明先、契約通知、外注先の窓口 | 営業担当が社員説明と取引先説明を調整。独立したBPは雇用手続きとは別の契約確認を行う。 |
譲渡企業様が先に整理したい資料
最初に整えるべき資料は、説明資料、FAQ、面談計画、雇用条件整理です。すべてを一度に開示する必要はありませんが、匿名相談の段階から「何があり、何が未整理か」を把握しておくと、候補先選定と交渉がスムーズになります。
ノンネーム段階では、会社名、顧客名、エンジニア個人名を伏せたまま、売上規模、業態、地域、技術領域、社員数、BP活用状況を記載します。NDA締結後に、顧客別売上、案件別粗利、契約書、スキルシート、稼働表などを段階的に開示します。
資料の見せ方で重要なのは、良い情報だけを並べることではありません。待機、退職、低粗利、主要顧客依存などの懸念点も、理由と改善余地を添えて説明できれば、買い手は判断しやすくなります。隠すよりも、整理して伝えるほうが交渉の後戻りを減らせます。
よくあるリスクと見せ方
社員説明で注意したいリスクは、突然の発表、処遇不安、案件変更、転職検討です。これらは必ずしも売却を不可能にするものではありません。重要なのは、買い手が不安に感じるポイントを事前に言語化し、契約やPMIでどう補うかを説明できる状態にすることです。
たとえば主要顧客依存が高い場合、依存度の数字だけを見るとリスクに見えます。しかし、長期継続している理由、担当者関係、契約更新の履歴、代替案件の営業状況が説明できれば、安定した取引基盤として評価される可能性があります。
BP比率が高い場合も同じです。外注依存と見られる一方で、柔軟な案件対応力や粗利管理の仕組みがあれば、買い手にとって魅力になることがあります。外注契約、支払サイト、再委託条項、稼働継続の見込みを整理しておくと、DDでの質問に答えやすくなります。
地域・業態別に変わる評価ポイント
東京や首都圏のSES会社では、単価水準、エンド直比率、採用競争、案件入替の速さが見られます。一方で地方のIT会社では、自治体、医療、製造、金融、地場SIerとの長期取引や屋号の信用が評価対象になります。地域によって強みの出し方は変わります。
受託開発を含む会社では、開発実績、保守契約、品質管理、PM体制が重要です。IT人材派遣を含む会社では、派遣許可、労務管理、派遣先の継続性、登録者管理が確認されます。SES、受託、派遣、エージェントを混ぜて説明せず、業態ごとに分けることが大切です。
買い手候補も一様ではありません。大手SIer、地方の事業会社、受託開発会社、人材会社、DX支援会社では、見ている価値が異なります。候補先の目的に合わせて資料を組み替えることで、同じ会社でも伝わり方が大きく変わります。
交渉前に決めておく条件
売却相談では価格だけに意識が向きがちですが、SES会社では価格以外の条件が成否を左右します。従業員の雇用継続、案件継続、顧客説明の時期、代表者の残留期間、社名や屋号の扱い、既存役員の処遇などを事前に整理しましょう。
買い手との面談前に、譲れない条件と相談可能な条件を分けておくと、交渉がぶれにくくなります。たとえば代表者が一定期間残れるのか、営業引継ぎをどこまで行うのか、主要顧客への説明を誰が担当するのかは、買い手の安心材料になります。
表明保証や補償条項も、後から慌てて確認すると負担が大きくなります。契約、労務、税務、個人情報、許認可、再委託の論点を早めに洗い出しておくことで、最終契約の段階で条件が大きく変わるリスクを下げられます。
譲渡企業様の手数料0円で相談するメリット
SES M&A総合センターでは、譲渡企業様から相談料、着手金、中間金、月額報酬、成功報酬をいただきません。大手仲介会社の公表料金には、成功報酬を含む最低手数料2,500万円(税別)の例があります(他社の公式料金案内、2026年9月8日確認)。算定基準や個別条件は各社の見積りで確認してください。
もちろん、DD、登記、税務、法務、労務など外部専門家費用が必要になる場合はあります。しかし、相談初期に手数料を理由として検討を止める必要がないため、価格感、候補先、進め方、秘密保持の方法を早い段階で確認できます。
売却するかどうか決めていない段階でも、匿名で相談できます。経営者にとって重要なのは、今すぐ売ることではなく、選択肢を持つことです。採用難、後継者不在、買い手からの打診、事業整理など、状況が変わる前に準備しておく価値があります。
相談前チェックリスト
社員説明について相談する前に、まずは直近の売上、粗利、稼働人数、待機人数、主要顧客、契約形態、社員構成、BP活用状況を簡単にメモしておきましょう。完璧な資料である必要はありません。未整理な点がわかるだけでも十分です。
次に、売却で守りたい条件を考えます。社員の雇用、顧客関係、社名、代表者の関与、譲渡価格、引継ぎ期間など、優先順位をつけておくと候補先選定がしやすくなります。条件が曖昧なまま打診すると、後から不安が大きくなります。
最後に、誰にどの情報をいつ開示するかを決めます。SES会社は顧客名やエンジニア情報の機密性が高いため、NDA前後で開示範囲を分ける必要があります。秘密保持を徹底しながら、買い手が判断できるだけの情報を段階的に出すことが実務上のポイントです。
まとめ
社員説明は、譲渡方式と必要な手続きを踏まえて計画します。働き方に関する確定事項と未確定事項、回答担当と時期を分け、全体説明だけで終わらず個別の疑問を受け止める体制を用意しましょう。
SES会社の売却は、決算書を出して価格を待つだけではうまく進みません。現場の言葉で事業を説明し、懸念点を先に整理し、守りたい条件を明確にすることで、納得できる候補先との面談につながります。
SES M&A総合センターでは、会社名を伏せた匿名相談から対応しています。譲渡企業様の手数料は成功報酬まで0円です。検討初期の段階でも、まずは自社の価値と進め方を整理するところからご相談ください。
補足:買い手が安心する説明の型
社員への説明を準備するときは、現状、根拠資料、承継後の対応、リスクが出た場合の代替策の順に並べると伝わりやすくなります。たとえば数値だけを示すのではなく、なぜその数字になっているのか、今後も維持できるのか、買い手がPMIでどこを支援すれば伸びるのかを言語化します。これはSES会社のように人と契約が価値の中心になる事業で特に重要です。
公式資料で確認する留意点
厚生労働省の事業譲渡等に関する案内では、事業譲渡による労働契約の承継について労働者の真意による承諾が必要とされています。株式譲渡、合併、会社分割とは手続きが異なるため、譲渡方式を確定したうえで説明・協議の内容と工程を専門家に確認します。
参照:厚生労働省「組織再編に伴う労働関係」。個別の契約・運営条件に応じて確認してください。
人材資料の開示は、利用目的・管理方法・不成立時の返却や消去等を定め、必要な範囲に絞ります。個人情報保護委員会の通則編も参照してください。
よくある質問
社員説明は成約後まで待ってよいですか。
一律に待つことはできません。譲渡方式と必要な説明・協議・承諾の手続きに応じて工程を決めます。情報管理をしながら、関係する社員が条件を理解し判断できる時間を確保します。
給与や配属が変わらなければ全員残りますか。
全員の残留は保証できません。仕事内容、評価、勤務地、キャリア、上司との関係なども確認し、説明後の個別面談と質問への回答を続けることが大切です。
BP技術者にも社員と同じ手続きをしますか。
自社の雇用する社員と独立した協力会社・個人事業主を分けます。BPについては顧客側の再委託条件、所属先との取引、継続意向と連絡窓口を確認します。
